JAIFの食糧、農業、林業支援
セクター概要 / JAIFの食糧、農業、林業支援
背景
ASEANは1億ヘクタール以上の農地を持ち、米をはじめとするさまざまな作物や穀物の生産、供給、輸出の主要国となっている。また、パーム油や天然ゴムの生産量も世界一であり、近年急成長を遂げている。1食糧・農業・林業は、依然としてASEAN地域の戦略的セクターであり、ASEANの人口の大部分を支える主要な収入源及び雇用源となっている。
一方でASEANは、気候変動への耐性を高めつつ、持続可能な農業生産と生産性の向上に取り組み、食料安全保障を確保する、という新たな課題に直面している。このような課題に対処するため、革新的で持続可能な農業の手法と技術は、ASEANの農業をより生産性が高く、経済的に実行可能で、環境的に配慮した方法に移行するために、ますます重要性を増している。
ASEAN地域における農業雇用の割合とGDPの農業が占める割合
出典:Theory vs practice: Patterns of the ASEAN-10 agri-food trade. 以下から入手可能 https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/opag-2021-0014/html#j_opag-2021-0014_fig_001 (2022年12月5日閲覧).
「食糧・農業・林業分野におけるASEAN協力のためのビジョンと戦略計画(2016-2025)」のもと、ASEANの食糧・農業・林業セクターは以下のことに取り組んでいる:1)公平で持続可能かつ包括的な成長の確保、2)貧困の緩和と飢餓の撲滅、3)食料安全保障、食の安全および栄養改善の確保、4)地域統合の深化、5)世界市場へのアクセスの強化、6)気候変動、自然災害およびその他の脅威に対するレジリエンスの向上、緩和および適応への貢献、7)持続可能な森林管理(SFM)の実現。
日本はASEANと、食料・農業・林業に関して、二国間・多国間の両方で長年にわたり協力関係を築いてきた。ASEANプラス3農林大臣会合(AMAF+3)の枠組みの下、日本は食料安全保障の向上に不可欠な、レジリエントで持続可能な農業と食料システムの強化に取り組んでいる。2
2023年10月4日に開催された第1回日本・ASEAN農林大臣会合(AJMAF)で採択された「日ASEANみどり協力プラン」は、日本の技術を活用し、経験を共有することにより、ASEAN加盟国との協力を強化し、ASEAN地域における強靭で持続可能な農業・食料システムを構築し、最終的には同地域の食料安全保障に貢献することを目的としている。
支援分野と 主な貢献
日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)の下、日本とASEANは、相互の関心分野における能力向上や技術支援を含む、いくつかの経済連携プロジェクトを実施した。日本はJAIFを通じて、今までに、農業生産性の向上を目指した6つのプロジェクト3を支援している。
他にも、ASEANの食糧・農業・林業関連の現在の主要戦略を支援する、様々なプロジェクトがJAIFの支援で実施されている。「食糧・農業・林業分野におけるASEAN協力のためのビジョンと戦略計画(2016-2025)」のもと実施されたJAIFのプロジェクトの主な成果は以下の通り。
食料、農業、林業分野におけるJAIFのフラグシッププロジェクト
Ariene G. Castillo 氏(シンガポール国立公園局動植物衛生センター シニアサイエンティスト )
Ariene氏は、潜葉虫診断の研修ワークショップの参加者の中から、成績優秀者の一人として選ばれ、日本で2ヶ月間の派遣プログラムに参加することとなった。同氏はこのプログラムを通じて、経済的に重要な潜葉虫類の分類学的識別について、より深い知識を得た。また、奈良県大和郡山市で12kmの道のりを歩いて標本を採取したときのことをこう話す。「サクラやミズナラなどの植物から、採葉の症状がある葉や、葉を食べる幼虫やさなぎの痕跡のある葉を調べました。」
この派遣プログラムでは、日本各地の大学や機関から17名の専門家や研究者が参加し、参加者に潜葉虫診断のためのさまざまな技術を教授した。「北から南まで、日本のさまざまな地域で勉強する機会を得ました。専門家たちは、潜葉虫やその他の害虫について、伝統的な技術と分子技術を組み合わせて異なる診断技術を示し、あらゆる害虫の診断に対応できる診断能力を広げてくれました。」さらにこのプログラムによって、参加者は情報交換のためのネットワークを作り、頼れる診断の専門家もできたことで、将来的に新しい害虫や未知の害虫の同定を迅速に行うことができる、とAriene氏は加えた。
派遣プログラムに参加した後、Ariene氏は同プログラムで得た技術を、勤務先の他の昆虫学者に伝えることができたという。このプログラムは自分の自信を高めるだけでなく、所属機関の能力向上にも寄与したと考えている。
Ariene氏のストーリーは受益者の声で閲覧可能。
JAIFは、現在進行中の以下のプロジェクトを通じて、食糧・農業・林業分野への支援を続けている: 1)ASEAN地域における気候変動に強い農業と低炭素食料システムの開発と普及、 2)漁業能力管理のためのASEAN地域行動計画の実施、 3)ASEANにおける水産養殖・畜産における抗菌剤耐性(AMR)対策としての生物学的防除剤(BCA)の適用に関する実証プロジェクト、 4)東南アジア地域の熱帯性ウナギの資源評価手法の開発と資源管理施策の強化、 5)官民連携を通じたASEANにおける作物保険の振興、 6)重力灌漑システムにおける地域灌漑水管理の効率化、 7)ASEAN地域におけるマングローブ生態系の管理 ASEAN版責任ある農業投資ガイドライン実施のための学習・認定プログラムの作成とテスト、 8)ASEANライスネットのためのJAIF能力構築プログラム、 9)東南アジアにおける漁業からの海洋ごみの監視と削減のための地域共同研究と能力構築。
2https://asean.org/wp-content/uploads/2022/10/2.-Final-JPS-22nd-AMAF-Plus-Three.pdf.
3日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)に貢献した、6つのプロジェクトは以下。
・ASEAN地域における、食糧及び農業のための植物遺伝資源の保全及び持続的利用に関する能力構築
・有機農業システムにおける米生産に係る人材育成
・ASEAN諸国のための遠隔地における再生可能エネルギー(バイオガス)開発に係る地域的理解強化
・ASEAN諸国の農業セクターにおける化学肥料、殺虫剤の適正使用促進
・ASEAN地域における、食糧及び農業のための植物遺伝資源の保全及び持続的利用に関する能力構築(フェーズ2)
・家畜資源の回復力と持続可能性に関するASEANバイオテクノロジー研究者の能力構築
4The project also supports Initiative for ASEAN Integration (IAI) Work Plan IV (2021-2025).
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