災害に強いASEAN共同体に向けてーASEANにおける災害リスク低減と気候変動適応のインパクトストーリー

27 November 2022

公共財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

「災害や気候変動の影響を最も受ける人々が排除された環境では、レジリエンスは育ちません。」
– ヤンゴン大学 地質学部教授 Su Su Kyi氏

ASEAN地域の人口の大半は、洪水や土砂災害などの定期的かつ広範囲な災害に脆弱な、河川敷や沿岸平野に住んでいる。気候変動が起こる中で、ASEAN地域に住む人々は、事前に災害に備えることに加えて、災害が起こってから対応するのではなく、災害に強いコミュニティーを事前に構築することを迫られている1

「気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災(ASEAN DRR-CCA)」プロジェクトは、気候変動予測を洪水・土砂災害リスク評価に組み込むことで、ASEAN加盟国が、自然災害のリスク評価とより安全な土地利用計画のための、ツールや技術を身に着けることを目的としている。

ラオス、ミャンマー、タイのプロジェクト関係者4人が、「気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災」プロジェクトに参加した際の、参加型の現地実習や統合的な災害リスク軽減訓練での経験について語った。

他にも様々なインパクトストーリーが、気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災(ASEAN DRR-CCA)のWebサイトにて閲覧可能。

マルチレベルのアプローチを通じたコミュニティーエンパワーメント

Bounsavanh Vongbounleua氏
ラオス気候変動局 テクニカルオフィサー

© 公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

「村は丘のふもとに位置しています。タイムリーな情報や支援へのアクセスは、依然として課題です。」

早期警戒は、洪水や土砂災害等の周期的かつ広範囲な災害に見舞われやすい脆弱な地域のレジリエンスを高めることができる、災害リスク管理の重要な手段である。早期警戒は、差し迫った危険を人々に知らせ、地域の人々に自ら決定を下すことにより、人命を救う。

Bouasavanh氏は災害時のコミュニティーへの備えとして、メガホンの設置、そして移住先の確保という2つの対策が必要であったと語る。ほとんどの村は、隣の村からの警告を頼りにしている。小さなコミュニティーにはメガホンが設置されていないのだ。「早期警戒が早期対策につながれば、災害の影響を軽減することができ、人命を守るという政府の任務を補完することができます。」

土地不足は多くの集落にとって深刻な問題であり、地滑りしやすい道路沿いの、切り立った斜面に家を建てることを余儀なくされている。「気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災」プロジェクトは、自治体や政府と協力し、詳細なリスク評価調査を実施した。「ASEANの多くの地域において、土砂災害が発生する可能性が高いことが分かりました。観測された脆弱性は、ASEAN諸国の一部の農村部や半都市部に共通するものです。早急な対策は、災害から生じる損失を軽減し、人命救助に役立つことでしょう。」

Daw Ngwe Yin氏
ミャンマー ミョーマ地区

© 公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

自然は予告なしで襲ってくる

何日も続いた豪雨により、壊滅的な土砂災害と鉄砲水が発生した。2019年8月3日の夜、周囲の丘から大量の泥、岩、瓦礫が近隣に叩きつけられ、壁が崩れ、家が水と泥でいっぱいになった。「あんなことは今まで見たことがありません。その時聞いた音は想像を絶するひどいものでした。今、生きていることが幸せです。」Daw Ngwe Yin氏は、この災害の多くの被害者の一人だ。Daw Ngwe Yin氏にとって自分の家はもう、安全な場所ではなかった。

Daw Ngwe Yin氏は、このプロジェクトが自分の住む町にやってくることを知ると、すぐに孫娘や近所の人たちを説得して参加させた。JAIFの支援により、プロジェクトの一環として、地域に根ざした災害リスク軽減のための演習が実施されたのだ。この訓練は、女性を含む地域住民が一堂に介して、気候変動に配慮したコミュニティーの災害リスク軽減について議論し、ブレインストーミングを行う、初めての場となった。

災害に強いASEAN共同体に向けて

Su Su Kyi氏
ヤンゴン大学 地質学部教授

©公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

近年、ミャンマーの各地でいくつかの重大な災害が報告された。洪水、サイクロン、干ばつ、土砂災害などの自然災害は、人々の日常生活や経済に深刻な影響を与えている。シャン州も、その被害を受けている。

災害リスクや災害への備えに対する人々の意識はさまざまである。タウンジーの現地リスク評価調査において、調査チームは、災害の影響を受けやすい地域に住むコミュニティーへのインタビューやグループディスカッションを行った。「過去に同様のインタビューや200件以上の調査を実施した経験から、この調査がいかに有用であるかがわかります。人々はとても希望に満ちていて、自分たちのコミュニティーを変えたいと願っています。このプロセスがいかに重要であるかを実感させられます。」
災害や気候リスクの影響を最も受ける人々が排除された環境では、レジリエンスは育たない。現地の知識と科学を組み合わせることで、既存のリスクや今後発生するであろうリスクをより正確に評価することができるようになるのだ。

Mallika Nillorn氏
タイ鉱物資源局 地質学者

©公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

複数のステークホルダーの協力を育む

「災害リスク軽減のために協力する取り組みは、すべての関係者にとって、学びと実践の改善をもたらす機会となります。」

「気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災」プロジェクトの設計において、複数のステークホルダーによる協力は必要不可欠であった。事例訪問先の1つとして選ばれたのが、タイのウッタラディット県だ。このプロジェクトで実施される参加型研修と訓練は、土砂災害リスク評価とリスクマッピング作成に関する優良事例(例:土砂災害監視ネットワーク、災害管理に関する地元委員会など)を参加者に紹介することを目的としている。加えて、ASEAN諸国間の相互学習も実施する。

「ドリアン・ファンディング」と呼ばれる土砂災害警報システムは、村人にドリアンの実2~3個を寄付してもらい、それを防災活動のための資金に変えるというものである。「災害リスク軽減のための対策は、特定の場所のリスク特性に焦点を当てる必要があります。」参加型の現地学習と災害リスク軽減のための統合的な訓練を通じて得られた、素晴らしい成果を目の当たりにしたNillorn氏は、このモデルプロジェクトが他のASEAN諸国でも共有され、再現されることを願っている。

ミャンマー・タウンジーにおける、土砂災害についての現地調査の様子

©公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)


これらの学びや豊富な経験は、
洪水土砂災害ガイドライン、流域パイロットサイト進捗報告書、洪水土砂災害リスクマップ 土地利用計画、事例調査報告書などの形でまとめられた。これらのガイドラインは、ASEAN地域における気候変動を考慮した流域規模の土砂災害・洪水リスク評価についての参考資料となっており、また意思決定プロセスにおいても活用されている。

本プロジェクトは、ASEAN防災緊急対応協定(AADMER)作業計画 2016-2020、特に優先プログラム3「災害に強く、気候変動に適応したASEAN共同体を推進」に寄与するものである。また、ASEANの全体目標「災害に強いASEAN共同体を構築し、災害損失を減らし、災害に集団的に対応する」への貢献を目指している。

[1] 気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災 紹介動画:https://www.youtube.com/watch?v=YR-ulN8dWHs