持続可能な都市を目指すASEAN

30 January 2019

JAIFマネージメントチーム

都市は国家の発展において、重要な役割を果たしている。経済・政治活動の拠点としてだけでなく、人々の文化的交流の中心としての役割も担っている。

急成長を遂げる都市を抱えるASEAN地域もまた、世界の他の地域と同様に、都市化による経済的利益とそれに伴う環境コストのバランスという課題に直面している。

近年、ASEANはこの課題に取り組むため、地道な努力を続けている。ASEAN環境的に持続可能な都市(ESC)の開発を促進するためには、協力的、統合的、革新的なアプローチが重要である。ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進 プログラムを通じて、ASEAN地域40都市のネットワークは、地元レベルでの都市の持続可能性の向上を目指す取り組みを開始した。以下のダナン(ベトナム)やルアンパバーン(ラオス)の事例に見られるように、「ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進」のパイロットプロジェクトでは、前向きな成果が得られた。

ダナンの環境に優しい住宅エリア  

海岸沿いの都市ダナンは、ベトナムの有名な観光地の一つである。近年では、2018年の第6回地球環境ファシリティ総会と2017年のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が、ダナンで開催されている。このような国際的な会合の開催地として選出された経験は、ダナンが環境に配慮した持続可能な都市となるための取り組みを、さらに促進していく励みとなっている。

2011年から2015年にかけて、ダナンはASEAN ESCモデル都市プログラムに参加した。 そのパイロットプロジェクトは、環境に配慮した住宅地で行われた。ASEAN ESCモデル都市プログラムを通じて、ダナン市は以下3つの環境に優しい住宅地モデルを確立した:1)チンザン坊(タインケー区)、2)ホアアン坊(カムレ区)、3)ホアニョン社 タイ・ライ村(ホアヴァン県)。

「ベトナムの他の急発展している都市と同様に、ダナンも、特に郊外で固形廃棄物の問題に直面していました。ゴミのポイ捨て、収集率の低さ、そして分別がされないことは、コミュニティの意識の低さによるもので、一般的な慣習となっていました」とダナン天然資源環境局のNguyen Thi Thu Ha副局長は述べた。Nguyen Thi Thu Ha副局長は、パイロットプロジェクトの支援終了後しばらくして、同局がチンザン坊を訪問したとき、最も誇りに思ったと語った。住宅地域のゴミの分別と収集が、大幅に改善されていたのだと言う。「道路にほとんどゴミは落ちていませんでした」とNguyen Thi Thu Ha氏は加える。チンザン坊は、包括的で複雑なルールの代わりに、ゴミの分別に慣れていない多くの住民が混乱や抵抗をしないような、シンプルで実用的なルールを導入した。これらのルールは、コミュニティの住人たちに合意された上で実施されたため、すぐに効果を発揮した。例えば、パイロット地域では、先進国のように廃棄物を少なくとも4~5種類(またはそれ以上)に分別するのではなく、1)その後も市場価値のある「リサイクル可能な廃棄物」と、2)適切に指定された場所に置かなければならない「その他の廃棄物」にのみ分別を実施した。

毎週行われる清掃活動には、設立された地域ボランティアが参加した。

© ダナン市人民委員会 ・公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

「プロジェクトによる数回の研修と意識向上キャンペーンの後、地域コミュニティが積極的に参加したおかげで、タックジャン(チンザン坊)は、ゴミの分別と収集がきちんと行われ、環境に優しい住宅地になりました」と副局長は語った。特に、毎週行われる清掃活動、有機農業、ゴミの分別、コンポスト化などの活動に、地域のボランティアが直接参加することで、住民たちは、自分たちが達成したことをみんなで守っていこうという強い意志を持つようになったと言う。さらに、こうした実体験によって、廃棄物問題が環境と公衆衛生に与える影響について、政府関係者と住民の双方が理解を深めた。

現在、ダナンは低炭素で気候変動に強い都市を目指す政策の実施に取り組んでいる。また、2011年に受賞したASEAN ESC賞を維持し、ダナンを世界で最も住みやすく美しい海岸都市の一つにする努力を続けている。

ルアンパバーンの分散型排水処理システム    

1995年に ユネスコの世界遺産に登録されたルアンパバーンは、ラオスで最も有名な観光地である。

2014年から2017年にかけて、ルアンパバーンは排水処理のパイロット・プロジェクトを通じてASEAN ESCモデル都市プログラムに参加した。文化遺産地域の中心部に位置するパッカム村は、有名なナイトマーケットの入り口でもあり、プロジェクトサイトの一つとして選ばれた。「ルアンパバーンを訪れる観光客や旅行者は必ずこの村を訪れるでしょう。国内外から多くの観光客が訪れるにもかかわらず、公衆トイレがひとつもなく、非常に不便でした」。これが、ルアンパバーンの「ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進」プログラムのプロジェクトマネージャーであるYengher Vacha氏が語る、残念な現実であった。

2017年、ASEAN ESCモデル都市プログラムの支援を受けて、ルアンパバーン市は国内初の分散型排水処理施設(DEWATS)を備えた公衆トイレを建設した。DEWATSを組み込んだ公衆トイレは、未処理の排水を直接環境に排出しないことが保証されている。

Pakkham村に建設されたDEWATS連動公衆トイレ

© Yengher Vacha/City of Luang Prabang

「ラオスでは、このようなプロジェクトが地元コミュニティと協議しながら実施されることは非常に珍しいのです。しかし、このプロジェクトでは、資金面でも運営面でも持続可能な公衆トイレを実現するために、地元住民と積極的に連携し、彼らのコミットメントと協力を得る必要がありました。実際、地元の人々はプロジェクトにとても協力的で、JAIFによるシード資金に加えて、貯水タンクとその周囲の壁を建設するための予算を、自分ら自発的に拠出してくれたのです とYengher Vacha氏は誇らしげに語った。

今、パッカム村の住民は、地元がより清潔、緑豊かで明るくなっただけでなく、衛生環境の改善による恩恵も受けている。住民たちは市政府と提携して公衆トイレを管理・運営しており、住民が清掃を担当し、利用者から少額の入場料を徴収することで、清掃物品の購入費を賄い、村の基金にも貢献している。持続可能な観光業に大きく依存しているこの都市は、「以前は価値が低く、放置されていたナイトマーケット周辺の公共スペースを、地元の人々や観光客にとって生産的で価値のある場所に変える」ことを目標に掲げ、同時に、ラオスの他の都市が衛生と排水処理について学べる、モデル都市としての評判を維持している。

ダナンやルアンパバーンの事例は、今と将来の世代のために、清潔で緑豊かな住みやすい地域社会を作る責任を担う地域コミュニティを、エンパワーしていくことの重要性を示している。このような地域の取り組みを、国内、及び地域の枠組みに組み込んでいくことが、ASEAN ESCモデル都市プログラムの、都市の持続可能性に向けた取り組みである。

ダナンは、JAIFの支援プロジェクト「ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進」の1年目(2011~2012年)から2年目(2014~2015年)のプログラムに参加し、ルアンパバーン市は2年目(2014~2015年)から3年目(2016~2017年)のプログラムに参加した。同プログラムは、地方/都市、国、地域レベルの様々なステークホルダーと協力し、ASEAN諸国全体で環境に優しい持続可能な都市の発展を促進することを目的とした。本プログラムは、日本政府がJAIFを通じて支援する「持続的開発目標に関するASEAN先進的都市プログラム」に引き継がれている。