能力向上と情報の普及を通じた、ASEAN遺産公園プログラムの強化
2020年6月29日

能力向上と情報の普及を通じた、ASEAN遺産公園プログラムの強化

JAIFマネージメントチーム

世界の総面積の3%を占めるASEAN地域には、既知の動植物の18%が生息している。1 同地域には4つの生物多様性ホットスポットが含まれており、種の固有性も高く、地球環境の持続可能性に関わる極めて重要な生息地となっている。1,300を超える保護地域の自然遺産とその優れた価値を守っていくため、1984年に「遺産公園と保全に関するASEAN宣言」が採択され、ASEAN遺産公園(AHP)プログラム wが設立された。独自の生態系と保全地域としての重要性が認められた保護区域が、ASEAN遺産公園として選定されている。遺産公園に関するASEAN宣言を通じて、ASEAN加盟国はASEAN遺産公園に対する認識を高め、効果的に管理することに合意した。その結果、現在ASEAN地域全体で合計49の遺産公園が管理されている。

2019年10月現在のASEAN遺産公園(AHP)マップ
© ASEAN生物多様性センター

しかし、ASEAN遺産公園の人的資本を世界基準に高めるためには、まだ多くの課題が残されている。 特に、これらの遺産公園に対する人々の認識不足は、動物や植物の違法捕獲・伐採、持続不可能な観光、そして人間と野生動植物に関する問題の増加につながっている。 このような課題を認識したASEAN生物多様性センター (ACB)は、ASEAN遺産公園(AHP)プログラムの事務局として2015年に能力開発プロジェクトを実施し、ASEAN遺産公園スタッフのデータ整理と管理能力を向上させるとともに、コミュニケーション・教育・普及啓発(CEPA)戦略と行動計画を通じて、より多くの人々の認識を高めた。以下は、ラオスのナムハ国立保護地域とマレーシアのグヌン・ムル国立公園の関係者が参加した活動や、ASEAN遺産公園から受けたトレーニングの体験談である。

ナムハ国立保護地域(ラオス)

Nam-Ha-NPA-min-768x373.jpgナムハ国立保護地域の熱帯雨林を覆う朝霧
© ナムハ国立保護地域

22万2400ヘクタールの土地に17の異なる民族が暮らすナムハ国立保護地域は、生物多様性と民族多様性の宝庫である。その重要性にもかかわらず、管理を担当する人材は、ナムハ国立保護地域の規模に対して深刻に不足している。ナムハ国立保護地域の副責任者であるSithisack Paninhuan氏は「ナムハ国立保護地域の職員のほとんどが林業や環境学関連の学位を持っているとはいえ、実際の現場で直面する問題は非常に難しいです」と語る。能力開発プログラムに参加する機会がほとんどないため、「スタッフは能力が不足しており、プログラム、特に啓発活動を適切に実施することができません」とSithisac氏は述べる。他の支援者がプロジェクトの実施に必要な資金を提供するだけであるのに対し、ASEAN生物多様性センター(ACB)は、コミュニケーション・教育・普及啓発(CEPA)を含む、特定の課題に対処するため、あるいは行動計画を策定するための、多くのトレーニングコースを提供している、とSithisac氏は加えた。

ナムハ国立保護地域はまた、2003年に野生生物保護協会(WCS)によって作成された2015年の管理・保全計画の草案の更新と改訂において、ACBから技術的・財政的支援を受けた。野生生物保護協会は当時のニーズに基づいて草案を作成したため、現在の状況や脅威に対応するための更新が必要であった。2 2013年からナムハ国立保護地域で働くSithisac氏は、「(ACBからの支援は)ナムハ国立保護地域にとって非常に顕著であり、管理計画はまだ完成していませんが、センターの指導のおかげで草案を改善することができました」と語った。

グヌン・ムル国立公園(マレーシア)

生物多様性、熱帯カルスト地形、巨大な鍾乳洞に富み、「王冠の宝石」と称されるこの地域は、世界で最も研究が進んでいる熱帯カルスト地域である。同地域の施設整備や管理は進んではいるものの、論争も生じている。特に、参加型管理と地元コミュニティへの利益の問題をめぐって、緊張関係が生じている。グヌン・ムル国立公園周辺の開発に対し、ベラワン族とペナン族が抗議の横断幕を掲げるなど、地元コミュニティの賛同を得ることは、国立公園の管理に際して課題であった。

Gunung-Mulu-NPA-min-225x300.jpg

ボートに乗ってクリアウォータケイブに向かい、ペナン村を通り過ぎる
© サラワク森林公社

緊張を和らげるために、Batu Bunganの工芸品市場にペナン族の生活を描いたミニ展示パネルを設置したり、特別公園委員会のメンバーに地元コミュニティのリーダーを任命したりするなど、地域コミュニティを対象としたコミュニケーション・教育・普及啓発(CEPA)プログラムが数多く実施された。その結果、公園ガイドや臨時労働者として管理局に直接雇用されることを望む地元住民が増えた。公認の公園ガイド101人のうち、84人がベラワン族やペナン族を含む地元コミュニティ出身者である。これにより、地元の人々の収入が増加し、州の農村変革プログラムにも貢献している。サラワク森林公社完全保護管理サービスのマネージャーであるVictor Luna Amin博士は、「ペナン族とベラワン族の公園ガイドが、それぞれ2013年と2015年に優秀な公園ガイドとして表彰されました」と語った。さらに「地元コミュニティは、シニア公園ガイドが率いるボート運営者協会を設立し、5家族以上が公園周辺に民泊を開業しています」と加えた。

Victor氏は、2015年にASEAN生物多様性センターが実施した「公園管理スタッフのための生物多様性評価方法論、データ収集、コミュニケーション及び意識啓発に関する研修」に参加した。Victor氏にとってこの能力開発活動は「サンプリング法を用いて、指定された四分円内の植物種を評価するフィールドワークが含まれており、最も興味深いものであった」と言う。Victor氏はこの研修が「特定の地域や森林の生物多様性の健全性を評価するのに役立つ」と感じている。

本プロジェクトの実施は、生物多様性条約の生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標に貢献しており、その重要な成果の1つとして、生物多様性への認識と理解を促進するため、グヌン・ムル国立公園を含む4本のアニメーションビデオを制作した。

ASEAN_Heritage_Parks_Gunung_Mulu_National_Park.png ASEAN-Heritage-Parks-A-Journey-to-the-Natural-Wonders-of-the-ASEAN-Region.png ASEAN_Heritage_Parks_Mounts_Iglit_Baco_National_Park.png ASEAN_Heritage_Parks_Tarutao_National_Park.png© ASEAN生物多様性センター


「能力強化と情報管理を通じたASEAN遺産公園の開発」プロジェクトは、日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じて日本政府の支援を受けており、ASEAN遺産公園周辺の地元コミュニティを含む保護地域管理者らは、他の多くのステークホルダー同様、同プロジェクトの恩恵を受けた。このプロジェクトは、2019年に実施された「人材開発と生物多様性情報の管理を通じたASEAN遺産公園の運営効率の改善」プロジェクトに引き継がれている。

 


https://aseanbiodiversity.org/the-richness-of-biodiversity-in-the-asean-region/
2016年からはドイツ復興金融公庫(KfW)がさらなる改訂を支援し、2019年10月末までの最終化を目指している。


実施機関

ASEAN Centre for Biodiversity (ACB), Philippines

セクター

Environment

資金枠組み

JAIF 2.0

関連受益者の声

ASEANにおけるサイバーセキュリティ能力構築支援

ASEANにおけるサイバーセキュリティ能力構築支援

サイバー犯罪は、個人や民間セクターだけでなく、政府やASEAN地域全体にとっても、最大の脅威の一つである。Cybersecurity Ventures は、2015年のサイバー犯罪被害額は3兆米ドルであったのが、2025年には年間10兆5千億米ドルを超えると予測している。INTERPOLの ASEAN Cyberthreat Assessment 2021 報告書によると、ASEAN地域においてもサイバー犯罪は指数関数的な増加傾向にあるとされている。サイバー犯罪の増加に伴い、熟練したサイバー人材の需要も急増している。残念ながら、熟練した労働力の供給は需要に追いついていない。Cybersecurity Ventures の予測では、2021年までに推定300万人のサイバーセキュリティの専門家が世界的に不足するという。サイバーセキュリティの人材不足は、ASEANでも大きな課題となっている。タイ電子取引開発庁の最高責任者であるChaichana Mitrpant博士は、2018年に日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)を設立した根拠を「我々はまだ(サイバーセキュリティ専門家が)数十万人不足しており、それだけの労働力を生み出すためには、はるかに遅れをとっている」と振り返る。また、より頻繁でより巧妙なサイバー犯罪に対応するため、政府と民間セクターはスキルの成長と開発に、より多くの投資をする必要があると付け加える。 AJCCBCは、2017年の第10回日・ASEAN情報セキュリティ政策会議で焦点となった、サイバーセキュリティ分野における人材育成の必要性に対応して設立された。日本政府は日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じて、AJCCBCの設立とその活動を支援してきた。日本の総務省はAJCCBCへの資金的な支援に加え、技術的な支援も行っている。AJCCBCは、ソフトウェア、ラボ、トレーニングコース、コンテストなどを通して、サイバーセキュリティの専門家の能力を高め、同時にASEAN加盟国間の緊密な関係を構築するための、重要な機関となっている。
2021年11月2日
マッピングプロジェクトを通じた、ASEANにおける自閉症者の権利とエンパワメントの促進

マッピングプロジェクトを通じた、ASEANにおける自閉症者の権利とエンパワメントの促進

ASEANは、自閉症の人々の権利を守り、エンパワメントを促進する方法を常に模索している。6億2,500万人以上の人口を抱えるASEAN地域には、約600万人の自閉症者がいると推定されている1, しかし、同地域における自閉症有病率に関しての信頼性の高いデータが不足しているため、自閉症の権利・エンパワメント促進の取り組みは思うように進んでいない。質の高い最新のデータは、障害者の権利に関する条約に沿った障害者インクルーシブな政策やプログラムを実施するために必要不可欠である。 この問題を認識したASEANは、自閉症の人々をマッピングし、自閉症に関する国別プロファイルを作成するマッピングプロジェクトを実施した。ASEAN事務局が主導するこのプロジェクトは、自閉症者の権利を保護・促進し、ASEAN地域における自閉症者のエンパワメントを推進することを目的としている。ASEANにおける障害者包摂の視点を考慮し、プロジェクトはさまざまなステークホルダーや受益者を巻き込んで実施された。2万4000人以上の参加者が、国および地域レベルで実施された協議会、ワークショップ、世界自閉症啓発デーの記念行事に参加した。 今回、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムのASEAN自閉症ネットワークのメンバーで、このイニシアティブから直接恩恵を受けた4名がプロジェクトで得た体験を語った。以下の体験談は、データ収集と標準化が、自閉症に関連する組織間の協力を促進するだけでなく、政策提言の作成にも役立つことを示している。 カンボジア自閉症ネットワーク
2021年3月30日
持続可能な都市を目指すASEAN

持続可能な都市を目指すASEAN

都市は国家の発展において、重要な役割を果たしている。経済・政治活動の拠点としてだけでなく、人々の文化的交流の中心としての役割も担っている。 急成長を遂げる都市を抱えるASEAN地域もまた、世界の他の地域と同様に、都市化による経済的利益とそれに伴う環境コストのバランスという課題に直面している。 近年、ASEANはこの課題に取り組むため、地道な努力を続けている。ASEAN環境的に持続可能な都市(ESC)の開発を促進するためには、協力的、統合的、革新的なアプローチが重要である。ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進 プログラムを通じて、ASEAN地域40都市のネットワークは、地元レベルでの都市の持続可能性の向上を目指す取り組みを開始した。以下のダナン(ベトナム)やルアンパバーン(ラオス)の事例に見られるように、「ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進」のパイロットプロジェクトでは、前向きな成果が得られた。 ダナンの環境に優しい住宅エリア   海岸沿いの都市ダナンは、ベトナムの有名な観光地の一つである。近年では、2018年の第6回地球環境ファシリティ総会と2017年のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が、ダナンで開催されている。このような国際的な会合の開催地として選出された経験は、ダナンが環境に配慮した持続可能な都市となるための取り組みを、さらに促進していく励みとなっている。 2011年から2015年にかけて、ダナンはASEAN ESCモデル都市プログラムに参加した。 そのパイロットプロジェクトは、環境に配慮した住宅地で行われた。ASEAN ESCモデル都市プログラムを通じて、ダナン市は以下3つの環境に優しい住宅地モデルを確立した:1)チンザン坊(タインケー区)、2)ホアアン坊(カムレ区)、3)ホアニョン社 タイ・ライ村(ホアヴァン県)。 「ベトナムの他の急発展している都市と同様に、ダナンも、特に郊外で固形廃棄物の問題に直面していました。ゴミのポイ捨て、収集率の低さ、そして分別がされないことは、コミュニティの意識の低さによるもので、一般的な慣習となっていました」とダナン天然資源環境局のNguyen Thi Thu Ha副局長は述べた。Nguyen Thi Thu Ha副局長は、パイロットプロジェクトの支援終了後しばらくして、同局がチンザン坊を訪問したとき、最も誇りに思ったと語った。住宅地域のゴミの分別と収集が、大幅に改善されていたのだと言う。「道路にほとんどゴミは落ちていませんでした」とNguyen Thi Thu Ha氏は加える。チンザン坊は、包括的で複雑なルールの代わりに、ゴミの分別に慣れていない多くの住民が混乱や抵抗をしないような、シンプルで実用的なルールを導入した。これらのルールは、コミュニティの住人たちに合意された上で実施されたため、すぐに効果を発揮した。例えば、パイロット地域では、先進国のように廃棄物を少なくとも4~5種類(またはそれ以上)に分別するのではなく、1)その後も市場価値のある「リサイクル可能な廃棄物」と、2)適切に指定された場所に置かなければならない「その他の廃棄物」にのみ分別を実施した。
2019年1月31日