ASEAN緊急対応評価チーム(ERAT)プログラムを通じて、地域的連携を強めるASEAN

13 December 2023

JAIFマネージメントチーム

東南アジアは、甚大な人命被害、社会的・経済的混乱、そして環境破壊を引き起こす壊滅的な自然災害の発生地である。世界で最も災害の多い地域のひとつであるASEANは、迅速かつ集団的で着実な地域的対応の能力強化を重要視している。この努力におけるフラグシッププログラムのひとつが、ASEAN緊急対応評価チーム(ASEAN-ERAT)プログラムである。このプログラムは、災害緊急事態の初期段階において、被災したASEAN加盟国にASEAN-ERATチームを迅速に派遣するための、ASEANの能力を強化するものである。

2022年フィリピンを襲った台風ナルガエに対し派遣されたASEAN-ERAT

© ASEAN防災人道支援調整(AHA)センター

ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)の運営のもと、ASEAN-ERATのメンバーは、国、そして地域レベルでの災害シミュレーション演習を含む100時間の専門的コースワークを修了しなければならない。現在までに、ASEAN-ERATプログラムを通じて、ASEAN全体で384人の参加者が訓練を受け、そのうち127人がASEAN-ERAT上級コースで更なる訓練を受けた。Angelito、Nora、Afiqahの3人は、ASEAN-ERATで訓練を受けた熱意溢れる専門家で、訓練や派遣中で特に印象に残っている経験を、JAIFマネージメントチームに語った。

フィリピン 市民防衛局 政策開発計画部長 Angelito R. Casinillo氏

2014年にASEAN-ERAT導入コースを修了したAngelito氏は、2022年11月の熱帯性暴風雨ナルガエに対応するため、フィリピン南部地域に派遣された前回の経験を振り返る。Angelito氏は「ASEAN-ERATのメンバーは、迅速かつ着実に活動するよう訓練されています。被災地に到着すると、すぐに現地調査とフォーカスグループディスカッションを行い、国の防災担当局の当面のニーズを把握しました。」と語る。さらに、派遣任務を終えた後の気持ちを「チームは震災後わずか2日で被災地に支援物資を届けることができたので、とても誇りに思いました」と振り返った。

2022年11月、熱帯性暴風雨ナルガエの被災者とともにニーズ調査を行ったAngelito氏(左)と
ASEAN-ERATのメンバーたち

© Angelito R. Casinillo

ERATの国内メンバーとして2度派遣されたAngelito氏は、2019年と2023年に受講した再教育コースが今でも有意義であったと感じている。「再教育コースのおかげで、更新されたASEAN-ERATガイドラインを見直すことができただけでなく、ASEAN-ERATの仲間たちと情報交換することもできました」。

ブルネイ・ダルサラーム 保健省 救急医療サービス部長 Hjh Nora binti Hj Md Yusof氏

「ASEAN-ERATプログラムの第1期生として参加できたことは、とても幸運なことでした」と、民軍協調のERATレベル2コースを既に修了したNora氏は語った。ASEAN-ERATプロジェクト運営委員会およびASEAN-ERAT諮問委員会に積極的に参加するメンバーとして、Nora氏は地域全体の標準を維持するというプログラムの重要性を強調した。「ASEAN地域全体での標準化を行うためには、JAIFがASEAN-ERATプログラムの下で行っている活動を通じて、団結しなければなりません。JAIFは、すべてのASEAN加盟国を結束させ、認定を受けて他国でも活動できるERATメンバーを輩出し続けているのです」。

2023年7月、災害対応のためのASEANおよび国際的なメカニズムやサービスについての理解を深めるため、ASEAN-ERAT再教育コースに参加したNora氏

© ASEAN防災人道支援調整(AHA)センター

Nora氏は、オンラインで閲覧可能なASEAN-ERATガイドラインの重要性を強調し、「ガイドラインは、派遣前および派遣中のASEAN-ERATメンバーにとって重要な参考資料となると同時に、ASEAN-ERATのメンバーが従うべき手順を標準化するものでもあります」と述べた。

マレーシア 公共サービス庁 外交官 Siti Nur Afiqah Binti Mohamed Musthafa氏

Afiqah氏は2022年にAHAセンター・エクゼクティブ(ACE)プログラムに参加し、ASEAN-ERAT導入コースを修了した。Afiqah氏は、「自分の世界が大きく広がるような経験でした。ASEAN-ERATプログラムは本当に素晴らしいプログラムです。国際的な、そして地元の、他の機関と協力するメカニズムを学びました」。「ASEAN加盟国や国連災害評価調整(UNDAC)のさまざまな人々と知り合うことができました。このプログラムのおかげでできた他のERATメンバーと繋がりは、今後役立つことでしょう。こういった繋がりのお陰で、最終的に地域全体の災害に対するASEANの集団的対応を加速させる、加盟国間の信頼とより強固な関係を構築することができたのです」とAfiqah氏は語った。

2023年7月に開催されたASEAN-ERAT再教育コースでのAfiqah氏(中央)

© ASEAN防災人道支援調整(AHA)センター

マレーシア国家防災管理庁(NADMA)で5年間を過ごした後、最近公共サービス庁に異動になったものの、Afiqah氏は現在も防災分野に大きな情熱を持っている。「早期復興に関するレベル2上級コースを受講する予定です」。「災害復興プログラムへの女性の参加拡大は重要です。災害への対応や復興の段階にもっと参加したいと思うようになりました」とAfiqah氏は述べた。さらに、「男性と女性では災害後のニーズが異なる可能性があるため、ジェンダーの問題に意識を向けるよう提唱することが不可欠です。しかし、ほとんどの場合、女性は災害対応や復興段階で注目されることは多くありません。」と同氏は語った。

世界各地で自然災害の頻度が増え、規模が大きくなっていく中、ASEAN-ERATメンバーの能力向上と強化は一層重要になっている。訓練や派遣で得た専門的スキルに加え、ASEAN-ERATメンバーらが自国の国家防災機関(NDMO)の能力向上を主導することで、各国が独自のイニシアティブを推進し、将来の災害に迅速に対応できるようになることが期待されている。

レジリエントなASEAN共同体の構築に対する日本の揺るぎないコミットメントは、2014年以来、日・ASEAN統合基金(JAIF)が支援する継続プロジェクトに反映されている。「ASEAN緊急対応評価チーム(ERAT)強化プロジェクト」の第3フェーズは現在進行中であり、2025年まで継続予定。