ASEANによる防災分野の未来のリーダー育成への取り組み
2018年7月1日

ASEANによる防災分野の未来のリーダー育成への取り組み

JAIFマネージメントチーム

東南アジアは地理的に、自然災害の影響を受けやすい。洪水、台風、地震、土砂災害、干ばつ、津波、火山噴火など、あらゆる自然災害が毎年この地域を襲い、人的被害・経済的損失等の未曾有の被害をもたらしている。


2015年にマレーシアのクランタン州を襲った大洪水の余波
© AHAセンター

災害に強いコミュニティの構築は、ASEAN諸国にとって優先的な対応事項である。このビジョンを実現するためには、ASEAN諸国が一丸となって対応できるよう、地域の機関や人々の能力向上に対する強いコミットメントが必要だ。近年では、ASEAN防災人道支援調整センター (AHAセンター)・エグゼクティブ・プログラムを通じて、さまざまな取り組みがなされている。組織力向上に向けた革新的アプローチ、ACEプログラムは、2014年1月16日に正式に開始されて以来、4期生合計62名の卒業生を輩出している。Grace氏、Vimala氏、そしてRose Ann氏はそのうちの3人である。彼らはプログラムを振り返り、経験や学んだ点について以下のように語った。

Mary Grace Somido氏 (フィリピン 市民防衛局 国家災害リスク軽減・管理評議会 市民防衛官)

2017年にフィリピンで起きたマラウィ事件の悲劇を目の当たりにし、Grace氏はACEプログラムで培ったネットワークの価値を改めて実感することとなった。被害を受けたマラウィ市とその周辺地域を迅速に支援するにあたり、そのネットワークは非常に役に立ったと言う。Grace氏は「AHAセンターが支援を行ったとき、地域オフィスのACEプログラム卒業生、そしてマレーシアの別のACEプログラム卒業生の間との連携がとてもスムーズでした。」と語った。

さらにGrace氏は、日本での研修で学んだことについてこう語った。「フィリピンでも実行できることがたくさんあると気がつきました。例えば、日本では災害の記録を取っています。これはとても参考になる事例のひとつで、現在、フィリピンでも同様に災害の記録を試みています。」

プログラム終了後、帰国したGrace氏は、ACEプログラムの卒業生であることを上司たちに認めてもらったことで、いつもより仕事が増えたと冗談交じりに語った。今年1月、彼女はASEAN緊急対応評価チーム(ERAT)の一員として、2018年1月15日から31日までミャンマーに派遣され、情報管理を任されていた。

Photo-2_AHA-Centre.jpgGrace氏 (左) と Vimala氏 (右) ACEプログラム開会式にて – 2016年第3期生
© AHAセンター

Vimala Khounthalangsy氏(ラオス 労働社会福祉省 社会福祉局 防災課 副課長)

「ACEプログラムに参加する前、AHAセンターとASEAN防災委員会(ACDM)の存在は知っていましたが、彼らが実際に何をしているのかは知りませんでした。」とVimala氏は率直に語った。ACEプログラムの参加者がAHAセンターに所属するという本プログラムの特徴は、センターの運営や支援対応にASEAN一丸となって、より積極的に関与することを可能にしている。Vimala氏は、AHAセンターと他のASEAN諸国のオペレーションに関する知識は、特に災害対応の調整が実際に必要な際に、非常に重要であると述べた。

また、Vimala氏は、マレーシアのスバンにあるASEAN緊急災害ロジスティックシステム(DELSA) の備蓄倉庫で物流管理の仕組みを実際に体験したことで、ラオスの倉庫の管理・運営方法について、より明確に理解することができたという。ラオスの災害対策にはまだ課題が残されてはいるものの、ACEプログラムを通じて得た知識やスキル、ネットワークを今後どのように活かしていくことができるか、Vimala氏は期待している。

Maria Rose Ann Estrella Pondevida氏 (フィリピン 市民防衛局 国家災害リスク軽減・管理評議会 市民防衛官)

Rose Ann氏にとっては、ニュージーランドでのリーダーシップ研修での学びが特に印象に残っている。「このプログラムは将来のリーダーを育成するものであったので、帰国後はより大きな責任を任されるようになり、研修で学んだことを存分に生かすことができました」と話した。

Photo-3_AHA-Centre-1.jpgニュージーランドのカンタベリー大学から修了証書を授与される Rose Ann氏 (第4期生)
© AHAセンター

Grace氏やVimala氏同様、Rose Ann氏もACEプログラムの卒業生たちと築いたネットワークは、何ものにも変え難いと語った。Rose Ann氏は、災害が起きたとき、SNSのチャットグループよりも何よりも、自分が持っているネットワークを通じて助けを求めたくなるものだと言う。「どの国も、皆同じであることを実感しました。災害の多い国もそうでない国も、多くのことを学びました。他国への援助を通じて、お互いの経験から学ぶことができます。災害時には、ネットワークに救われるものです。」とも述べた。

ACEプログラムは、集中的かつ実践的な研修を通じてASEAN地域の将来のリーダーを育成するだけでなく、地域内外の災害への対応に備え、ASEAN諸国と日本を含む近隣諸国との相互連携の促進を目的としている。


ACEプログラム(第1~4期生)は、日・ASEAN統合基金(JAIF)の支援プロジェクト「ASEAN緊急災害ロジスティックシステム(DELSA)設立」の一環として実施された。次期生は、同じくJAIFの支援プロジェクト「AHAセンターエグゼクティブ(ACE)プログラム 2018-2020」で2018年8月に発足予定。


実施機関

The ASEAN Coordinating Centre for Humanitarian Assistance on Disaster Management (AHA Centre), Indonesia

セクター

Disaster Management and Humanitarian Assistance

資金枠組み

JAIF 2.0

関連受益者の声

ASEAN緊急対応評価チーム(ERAT)プログラムを通じて、地域的連携を強めるASEAN

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東南アジアは、甚大な人命被害、社会的・経済的混乱、そして環境破壊を引き起こす壊滅的な自然災害の発生地である。世界で最も災害の多い地域のひとつであるASEANは、迅速かつ集団的で着実な地域的対応の能力強化を重要視している。この努力におけるフラグシッププログラムのひとつが、ASEAN緊急対応評価チーム(ASEAN-ERAT)プログラムである。このプログラムは、災害緊急事態の初期段階において、被災したASEAN加盟国にASEAN-ERATチームを迅速に派遣するための、ASEANの能力を強化するものである。
2023年12月23日
災害に強いASEAN共同体に向けてーASEANにおける災害リスク低減と気候変動適応のインパクトストーリー

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「災害や気候変動の影響を最も受ける人々が排除された環境では、レジリエンスは育ちません。」 – ヤンゴン大学 地質学部教授 Su Su Kyi氏 ASEAN地域の人口の大半は、洪水や土砂災害などの定期的かつ広範囲な災害に脆弱な、河川敷や沿岸平野に住んでいる。気候変動が起こる中で、ASEAN地域に住む人々は、事前に災害に備えることに加えて、災害が起こってから対応するのではなく、災害に強いコミュニティーを事前に構築することを迫られている1。 「気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災(ASEAN DRR-CCA)」プロジェクトは、気候変動予測を洪水・土砂災害リスク評価に組み込むことで、ASEAN加盟国が、自然災害のリスク評価とより安全な土地利用計画のための、ツールや技術を身に着けることを目的としている。 ラオス、ミャンマー、タイのプロジェクト関係者4人が、「気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災」プロジェクトに参加した際の、参加型の現地実習や統合的な災害リスク軽減訓練での経験について語った。 他にも様々なインパクトストーリーが、気候変動予測を組み込んだ洪水・土砂災害リスク評価による防災(ASEAN DRR-CCA)のWebサイトにて閲覧可能。
2022年11月28日
能力向上と情報の普及を通じた、ASEAN遺産公園プログラムの強化

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世界の総面積の3%を占めるASEAN地域には、既知の動植物の18%が生息している。1 同地域には4つの生物多様性ホットスポットが含まれており、種の固有性も高く、地球環境の持続可能性に関わる極めて重要な生息地となっている。1,300を超える保護地域の自然遺産とその優れた価値を守っていくため、1984年に「遺産公園と保全に関するASEAN宣言」が採択され、ASEAN遺産公園(AHP)プログラム wが設立された。独自の生態系と保全地域としての重要性が認められた保護区域が、ASEAN遺産公園として選定されている。遺産公園に関するASEAN宣言を通じて、ASEAN加盟国はASEAN遺産公園に対する認識を高め、効果的に管理することに合意した。その結果、現在ASEAN地域全体で合計49の遺産公園が管理されている。
2020年6月29日