マッピングプロジェクトを通じた、ASEANにおける自閉症者の権利とエンパワメントの促進
2021年3月30日

マッピングプロジェクトを通じた、ASEANにおける自閉症者の権利とエンパワメントの促進

アジア太平洋障害者開発センター(APCD)

ASEANは、自閉症の人々の権利を守り、エンパワメントを促進する方法を常に模索している。6億2,500万人以上の人口を抱えるASEAN地域には、約600万人の自閉症者がいると推定されている1, しかし、同地域における自閉症有病率に関しての信頼性の高いデータが不足しているため、自閉症の権利・エンパワメント促進の取り組みは思うように進んでいない。質の高い最新のデータは、障害者の権利に関する条約に沿った障害者インクルーシブな政策やプログラムを実施するために必要不可欠である。

この問題を認識したASEANは、自閉症の人々をマッピングし、自閉症に関する国別プロファイルを作成するマッピングプロジェクトを実施した。ASEAN事務局が主導するこのプロジェクトは、自閉症者の権利を保護・促進し、ASEAN地域における自閉症者のエンパワメントを推進することを目的としている。ASEANにおける障害者包摂の視点を考慮し、プロジェクトはさまざまなステークホルダーや受益者を巻き込んで実施された。2万4000人以上の参加者が、国および地域レベルで実施された協議会、ワークショップ、世界自閉症啓発デーの記念行事に参加した。

今回、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムのASEAN自閉症ネットワークのメンバーで、このイニシアティブから直接恩恵を受けた4名がプロジェクトで得た体験を語った。以下の体験談は、データ収集と標準化が、自閉症に関連する組織間の協力を促進するだけでなく、政策提言の作成にも役立つことを示している。

カンボジア自閉症ネットワーク

A2019年4月1~2日、カンボジア・プノンペンにおいて実施された
ASEAN自閉症マッピング国別政策ワークショップと世界自閉症啓発デーの記念行事
© アジア太平洋障害者開発センター(APCD)

カンボジア自閉症ネットワークは、国別プロファイルと政策提言の作成に参加した。この活動には、カンボジア社会福祉省、教育・青年・スポーツ省、障害者協議会、NGO、主要5県の代表者など、約500人の関係者が参加した。自閉症に関する国の政策提言は計画通りに実施され、国の障害者政策の中で自閉症の人々の問題が今後大きく取り上げられることが期待されている。

また、世界自閉症啓発デーの記念行事が、一般の人々と自閉症者の家族の、自閉症に対する認知を高めるために開催された。

「このプロジェクトは、政府機関や民間セクターの自閉症に対する認識を向上させました。プロジェクトを通じて、政府とNGOの間で自閉症に対するより深い理解と協力が生まれました」 とカンボジア自閉症ネットワーク代表のSarin Chan氏は語る。

自閉症協会(ラオス)

2._Lao_PDR-1536x990.jpeg2019年3月19日にラオス・ビエンチャンにて開催された、自閉症マッピングと政策提言作成のワークショップには、政府・民間組織・障害者団体など様々なセクターの関係者が参加した
© アジア太平洋障害者開発センター(APCD

ラオスの自閉症協会は、労働・社会福祉省、教育・スポーツ省、保健省、アセスメントサービス・リハビリテーションセンターを持つ国営病院と共に、国別プロファイルのマッピングと政策提言の作成に携わった。ワークショップでは、成果のひとつとして、国への政策提言が作成された。

自閉症患者についての認識を高めるため、世界自閉症啓発デーの記念行事がビエンチャンで開催された。このイベントは関係者の間で自閉症についての認識を高め、地元企業から寄付が集まった。自閉症協会のViengsam Indavong代表は、「プロジェクトは自閉症者自身だけでなく、その家族や保護者にとっても有益なものでした。同プロジェクトは、ラオスのすべての関係者にとって、自閉症者に関する課題に取り組む第一歩となりました」と振り返る。

自閉症タイ財団

3._Thailand-1536x827.jpeg2019年3月16日にタイ・バンコクにて開催されたワークショップには、
自閉症タイ財団に加え、政府や障害者団体の代表らが参加した
© アジア太平洋障害者開発センター(APCD)

タイ自閉症協会は、自閉症に関する国別プロファイルと国への政策提言作成のワークショップに参加した。プロジェクトは、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献し、2018年に開催された国連総会にて採択された自閉症の人々に対する課題に沿ったものである。ワークショップには約600人が参加し、一連の政策提言がなされた。政策提言が国レベルで採用されれば、自閉症者の保護者、自閉症者自身、地域社会、そして政府の、自閉症問題に対する認識に大きく影響を与えることになる。

「このプロジェクトのおかげで、政府に対し、国レベルで自閉症者の課題の注意喚起をするプラットフォームができました。さらに、タイ自閉症協会、関係者、政府の間の理解の促進にも繋がっています」 と、タイ自閉症児親の会 国際関係担当 第一副会長のSamreng Virachanang博士は語る。

ベトナム自閉症協会

4._Viet_Nam-1536x1074.jpeg2019年2月16日から20日にかけて、自閉症の子供の学習曲線を理解するため、
ベトナム・ホーチミンにある提携校を訪問
© アジア太平洋障害者開発センター(APCD)

ベトナム自閉症ネットワークは、国の自閉症プロファイルと政策提言の作成に深く関わっている。政策提言作成ワークショップには、保健省、教育・訓練省、労働・傷病兵・社会問題省の代表者、自閉症児童の保護者、教師、医師らを含む100名以上が参加した。ワークショップでは、ベトナムにおける自閉症者の現在のニーズが取り上げられた。自閉症に関する政策提言は、計画通りにまとめられた。

ベトナム自閉症ネットワーク会長のPham Thi Kim Tam氏は、「プロジェクトは、自閉症者とその親に直接的な利益を与えたため、ベトナムの自閉症者にとって貴重な経験となりました。また同プロジェクトによって、ベトナム自閉症ネットワーク、政府、その他の関係者間の協力と理解が深まりました」と述べた。


これらの活動は、日本政府が日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じて支援した「ASEAN地域における自閉症マッピング計画」の一環である。ASEAN加盟10カ国の自閉症に関する国別プロファイルは「Autism at A Glance in ASEAN」にまとめられている。政策提言 は、政府関係者及びASEAN自閉症ネットワークのメンバーに加え、ASEAN事務局、社会福祉・開発高級実務者会合(SOMSWD)の代表者らが参加した、地域ワークショップで発表された。プロジェクトのその他の重要な成果としては、第4回ASEAN自閉症ネットワーク会議の開催が挙げられる: 2018年10月20~21日、インドネシアのジャカルタにおいて、ASEAN Autism Games 2018が開催された。

本プロジェクトは、2年間(2018年~2020年)にわたり、アジア太平洋障害者開発センター(APCD)によって実施された。他のASEAN加盟国の調査結果についてはこちらを参照。

 


1 人数はアジア太平洋障害者センター(APCD)会長 Tej Bunnag博士著 Autism at A Glance in ASEAN序文から引用。


セクター概要

Social Welfare and Development

資金援助の枠組み(ファンディング・フレームワーク)

JAIF 2.0

関連受益者の声

ASEAN緊急対応評価チーム(ERAT)プログラムを通じて、地域的連携を強めるASEAN

ASEAN緊急対応評価チーム(ERAT)プログラムを通じて、地域的連携を強めるASEAN

東南アジアは、甚大な人命被害、社会的・経済的混乱、そして環境破壊を引き起こす壊滅的な自然災害の発生地である。世界で最も災害の多い地域のひとつであるASEANは、迅速かつ集団的で着実な地域的対応の能力強化を重要視している。この努力におけるフラグシッププログラムのひとつが、ASEAN緊急対応評価チーム(ASEAN-ERAT)プログラムである。このプログラムは、災害緊急事態の初期段階において、被災したASEAN加盟国にASEAN-ERATチームを迅速に派遣するための、ASEANの能力を強化するものである。
2023年12月23日
ASEANにおけるサイバーセキュリティ能力構築支援

ASEANにおけるサイバーセキュリティ能力構築支援

サイバー犯罪は、個人や民間セクターだけでなく、政府やASEAN地域全体にとっても、最大の脅威の一つである。Cybersecurity Ventures は、2015年のサイバー犯罪被害額は3兆米ドルであったのが、2025年には年間10兆5千億米ドルを超えると予測している。INTERPOLの ASEAN Cyberthreat Assessment 2021 報告書によると、ASEAN地域においてもサイバー犯罪は指数関数的な増加傾向にあるとされている。サイバー犯罪の増加に伴い、熟練したサイバー人材の需要も急増している。残念ながら、熟練した労働力の供給は需要に追いついていない。Cybersecurity Ventures の予測では、2021年までに推定300万人のサイバーセキュリティの専門家が世界的に不足するという。サイバーセキュリティの人材不足は、ASEANでも大きな課題となっている。タイ電子取引開発庁の最高責任者であるChaichana Mitrpant博士は、2018年に日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)を設立した根拠を「我々はまだ(サイバーセキュリティ専門家が)数十万人不足しており、それだけの労働力を生み出すためには、はるかに遅れをとっている」と振り返る。また、より頻繁でより巧妙なサイバー犯罪に対応するため、政府と民間セクターはスキルの成長と開発に、より多くの投資をする必要があると付け加える。 AJCCBCは、2017年の第10回日・ASEAN情報セキュリティ政策会議で焦点となった、サイバーセキュリティ分野における人材育成の必要性に対応して設立された。日本政府は日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じて、AJCCBCの設立とその活動を支援してきた。日本の総務省はAJCCBCへの資金的な支援に加え、技術的な支援も行っている。AJCCBCは、ソフトウェア、ラボ、トレーニングコース、コンテストなどを通して、サイバーセキュリティの専門家の能力を高め、同時にASEAN加盟国間の緊密な関係を構築するための、重要な機関となっている。
2021年11月2日
 全ての「人」が輝ける世界へーASEANにおける障害者(PWD)の総合的な生活の質とウェルビーイング向上のためのプロジェクト(フェーズ1)

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農村部の市場は、地域の商取引の中心であり、地元経済の要となっている。しかしこうした市場は、障害者やその他困難のある人々にとって、アクセスが難しいことが多い。以下は、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムにおける、4人の体験談である。農村部の市場を障害を持つ人々にもアクセスしやすくすることで、彼らが製品やサービスを利用する機会が増えるだけでなく、貧困と闘う手段として、彼ら自身が製品やサービスを提供する機会になることを実証している。 以下4つの体験談の詳細は、をご覧ください。コミュニティとの一体感カンボジア カンダル州 Kien Svay地区 Phlou Thmey市場
2019年6月29日