平和構築における若者の役割の強化
2025年3月12日

平和構築における若者の役割の強化

JAIFマネージメントチーム

若者は、将来のリーダーであるだけでなく、現在においても積極的に変革をもたらす存在です。人と人とをつなぎ、相互理解を深める力を持つため、彼らの役割りは、平和の促進においてこれまで以上に重要となっています。現在、15歳から24歳までの若者は世界に約12億人おり、これは世界人口の約16%を占めています。この圧倒的な数が示すように、若者は社会に前向きな変化をもたらす大きな可能性を秘めています。この可能性の重要性は、国連安全保障理事会決議第2250号にも明記されています。この決議では、若者が紛争の影響を受けやすい立場にある一方で、世界全体、そしてASEAN地域においても、平和と安全の構築・維持に貢献できる存在であることが認識されています。しかし、そのような可能性を十分に引き出すためには、体系的な支援や継続的なプログラムの整 が不可欠です。こうした支援がなければ、若者の持つ力や意欲が活かさ


© ASEAN平和和解研究所 (ASEAN-IPR) 

若者のエンパワーメントのが注目される中、「ASEAN-IPRトレーニング:平和構築における若者の役割の強化」が、2024729日から82までインドネシアで開催されました。 

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© ASEAN-IPR

本プログラムには、ASEAN加盟国、東ティモール、そして日本から集まった34名の情熱あふれる若手リーダーが参加し、紛争の構造や平和構築の戦略について理解を深める貴重な機会となりました。トレーニングでは、ユース・エキスパートによる・パネルディスカッション、インタラクティブなセッション、グループ課題、現地でのフィールドスタディなど、多彩な内容が実施されました。参加者は、政府・非政府セクターの関係者、新卒者、学術関係者、若手の平和構築活動家など、多様なバックグラウンドを持つ人々で構成されており、「女性・平和・安全保障(WPS)」をはじめとする、平和構築、紛争解決、アドボカシーといった幅広いテーマについて、ロールプレイやグループワークを通して学びを深めました。こうした実践的な活動を通じて、参加者同士が協力関係を築きながら、実践的な知識を応用する力を養う、非常に有意義なプログラムとなりました。本トレーニングに参加した若者たちの声を紹介します。 

ソファ・モンユードム氏(カンボジア王国外務・国際協力省) 

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カンボジア代表として、アクションプラン「Peace 101」についてのプレゼンテーションを行うソファモンユードム氏。
© ASEAN-IPR

ソファモンユードム氏は、若者たちに向けて「自らの若者としてのアイデンティティを大切にし、他者と協力しながら自分の可能性を最大限に活かし、平和と繁栄のために貢献していきましょう」と呼びかけました。

また、カンボジアから参加した他の2名とともに、「Peace 101」と題したアクションプランを策定しました。このプランは、若者の間で平和教育を推進することを目的としており、平和に関する基本的な概念や、原則、必要なスキルを紹介しながら、平和を重んじる価値観の醸成を目指すものです。さらに、この目標をより広く普及させるための手段として、若者向けのアプリの開発も提案しました。 

平和構築に関するトレーニングセッションの中で作成された記事でも強調されているように、若者の能力強化は「ASEANユース・ワークプラン2021–2025」における主要な重点分野の一つです。記事では、ボランティア活動や持続可能な開発目標(SDGs)の地域レベルで実践することを通じて、社会にポジティブな変化をもたらすために、若者が21世紀型スキルを習得することの重要性が指摘されています。プロジェクトの企画・運営・発表・資金調達といったトレーニングを通じて、若者は自らのアイデアや志を具体的なアクションプランへと昇華させ、地域社会にポジティブな影響を与える力を身につけることができます。 

有馬千尋氏(リーチ・オルタナティブズ日本) 

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自身の見解を共有し、議論にも積極的に参加する有馬氏は。
© ASEAN-IPR

トレーニングを通じて、有馬千尋氏は、若者が抱える特有の脆弱性と可能性について振り返りました。経済的困難は、若者が犯罪組織に関与するなどの負の連鎖に巻き込むリスクを高めますが、同時に、こうした脆弱性は、自らの課題やニーズを深く見つめ直すきっかけにもなり得ます。このような自己認識に加え、同じような状況にある他者への共感力を育むことによって、若者は暴力の根本的な要因に向き合い、平和を推進する力強い変革の担い手となることができます。

「このトレーニングは、紛争とは何か、そしてそのネガティブな側面をどのようにポジティブなものへと転換できるのか、また、若者や平和構築者として私たちに何ができるのか、何をすべきなのかを、多様な背景を持つ参加者との意見交換を通じて深く考える、貴重な機会となりました」と有馬氏は語りました。

日本では、若者の投票率の低さが依然として大きな課題であり、その背景には、政治への関心の低さや政治家への不信感、「投票しても何も変わらない」という無力感があると指摘されています。

「グループ演習の中で、私たちはこの問題の根本的な原因を掘り下げ、政治に関する知識や意識の不足、投票によって変化は起こらないという考え方、政治家に対する不信感などが、若者の低投票率に深く関係していることを明らかにしました」と語る有馬氏は、この課題に対処するためのアクションプランを策定しました。

有馬氏のアクションプラン「Voices for Tomorrow(明日への声)」は、東京の高校を対象とした3年間のパイロットプログラムで、若者の政策決定への参画を促すことを目的としています。このプランは、若者の投票率や政策形成への関与の乏しさといった課題に対応するもので、若者がガバナンスプロセスに影響を与えるために必要な知識やスキルを身につけるとともに、政策立案者と対話の場を提供することを目指しています。

エフォル・T・カランドリア氏(フィリピン大統領府和平・和解・統一担当顧問室) 

5.jpgトレーニングセッション中にプレゼンテーションを行うエフォル氏。
© ASEAN-IPR

「このトレーニングは、ある意味で“平和構築の基盤”—、つまり“関係性の構築”の土台となるものでした」と語るエフォル氏。「本当に多くの学びがあり、“なるほど!”と何度も感じさせられました。特に心に残っているのは、秋子先生の『私たちの活動の成果とは、“本当に幸せな人”を生み出すことだ』という言葉です。とてもシンプルでありながら、力強く、深い意味を持った言葉でした。すべての若き平和構築者たちが、これからも平和のために歩み続けてくれることを心から願っています。決して簡単な道ではありませんが、私たちの努力が、いつか確かな意味を持つ日が来ると信じています」と、率直な想いを語りました。

エフォル氏のチームは、「テロおよび紛争の被害者(VoTC:Victims of Terrorism and Conflicts)のエンパワーメント、回復、リハビリテーションのための取り組み」を、バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域において提案しました。

このイニシアチブは、武力紛争の影響を受けた地域に暮らす若者、女性、子どもたちに対して、社会的癒しや回復、リハビリテーション支援を行うことを目的としています。地域社会との連携を通じて、地元住民が抱える不満や課題に向き合い、すべての関係者に認められる、VoTCによる包括的な組織の設立を目指しています。

セリナ・ソアレス・フランクリン氏、(東ティモール・ユースパーラメント/東ティモール)

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積極的に議論に参加した東ティモールの参加者セリナ氏。
© ASEAN-IPR

「このトレーニングで最も興味深かったのは、紛争解決について学べたことです。平和なくして発展はあり得ないという点で、東ティモールの現状に非常に関係が深いと感じました。非暴力的な手段で紛争を解決することの重要性を改めて実感しました」

セリナ氏とそのチームは、「パス・トゥ・ピース(Path to Peace)」というプロジェクトを提案しました。このプロジェクトは、戦時下に生まれた子どもたち(CBW:Children Born of War)や若者の権利が国家および社会によって尊重されることを目指すものです。平和構築の取り組みや地域社会との合意形成、そして持続的な協力を通じて、こうした脆弱な立場にある人々を支援する環境を築くことを目的としています。

また、参加者たちは、平和構築活動への若者の積極的な関与を妨げる要因についても意見を交わしました。議論では、政府と若者の連携強化の必要性に加え、貧困や教育・資源への不平等なアクセスといった、若者の関与を制限する根本的な課題への対応策についてもアイデアが共有されました。


「ASEAN-IPRトレーニング:若者の平和構築における役割の強化」は、参加者同士の協力関系の構築、批判的思考の促進、そして革新的なアクションプランの創出において大きな成果を上げました。このトレーニングは若きリーダーたちに平和実現のための知識とツールを提供することで、地域の長期的な安定と繁栄に向けた“種”を蒔いたのです。参加者たちの物語は、若者が社会を変革し、平和の文化を築いていく上で、計り知れない可能性を秘めていることを改めて示しています。

トレーニングのハイライトをご覧になりたい方は、こちらをご覧ください。また、若者の平和構築における役割について、参加者の考察をさらに知りたい方は、『ASEAN IPR 若者の平和構築における役割強化トレーニング 参加者寄稿集』をご覧ください。


実施機関

ASEAN Institute for Peace and Reconciliation (ASEAN-IPR), Indonesia

セクター

Human Rights

資金枠組み

JAIF 2.0

関連受益者の声

ASEANにおけるサイバーセキュリティ能力構築支援

ASEANにおけるサイバーセキュリティ能力構築支援

サイバー犯罪は、個人や民間セクターだけでなく、政府やASEAN地域全体にとっても、最大の脅威の一つである。Cybersecurity Ventures は、2015年のサイバー犯罪被害額は3兆米ドルであったのが、2025年には年間10兆5千億米ドルを超えると予測している。INTERPOLの ASEAN Cyberthreat Assessment 2021 報告書によると、ASEAN地域においてもサイバー犯罪は指数関数的な増加傾向にあるとされている。サイバー犯罪の増加に伴い、熟練したサイバー人材の需要も急増している。残念ながら、熟練した労働力の供給は需要に追いついていない。Cybersecurity Ventures の予測では、2021年までに推定300万人のサイバーセキュリティの専門家が世界的に不足するという。サイバーセキュリティの人材不足は、ASEANでも大きな課題となっている。タイ電子取引開発庁の最高責任者であるChaichana Mitrpant博士は、2018年に日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)を設立した根拠を「我々はまだ(サイバーセキュリティ専門家が)数十万人不足しており、それだけの労働力を生み出すためには、はるかに遅れをとっている」と振り返る。また、より頻繁でより巧妙なサイバー犯罪に対応するため、政府と民間セクターはスキルの成長と開発に、より多くの投資をする必要があると付け加える。 AJCCBCは、2017年の第10回日・ASEAN情報セキュリティ政策会議で焦点となった、サイバーセキュリティ分野における人材育成の必要性に対応して設立された。日本政府は日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じて、AJCCBCの設立とその活動を支援してきた。日本の総務省はAJCCBCへの資金的な支援に加え、技術的な支援も行っている。AJCCBCは、ソフトウェア、ラボ、トレーニングコース、コンテストなどを通して、サイバーセキュリティの専門家の能力を高め、同時にASEAN加盟国間の緊密な関係を構築するための、重要な機関となっている。
2021年11月2日
マッピングプロジェクトを通じた、ASEANにおける自閉症者の権利とエンパワメントの促進

マッピングプロジェクトを通じた、ASEANにおける自閉症者の権利とエンパワメントの促進

ASEANは、自閉症の人々の権利を守り、エンパワメントを促進する方法を常に模索している。6億2,500万人以上の人口を抱えるASEAN地域には、約600万人の自閉症者がいると推定されている1, しかし、同地域における自閉症有病率に関しての信頼性の高いデータが不足しているため、自閉症の権利・エンパワメント促進の取り組みは思うように進んでいない。質の高い最新のデータは、障害者の権利に関する条約に沿った障害者インクルーシブな政策やプログラムを実施するために必要不可欠である。 この問題を認識したASEANは、自閉症の人々をマッピングし、自閉症に関する国別プロファイルを作成するマッピングプロジェクトを実施した。ASEAN事務局が主導するこのプロジェクトは、自閉症者の権利を保護・促進し、ASEAN地域における自閉症者のエンパワメントを推進することを目的としている。ASEANにおける障害者包摂の視点を考慮し、プロジェクトはさまざまなステークホルダーや受益者を巻き込んで実施された。2万4000人以上の参加者が、国および地域レベルで実施された協議会、ワークショップ、世界自閉症啓発デーの記念行事に参加した。 今回、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムのASEAN自閉症ネットワークのメンバーで、このイニシアティブから直接恩恵を受けた4名がプロジェクトで得た体験を語った。以下の体験談は、データ収集と標準化が、自閉症に関連する組織間の協力を促進するだけでなく、政策提言の作成にも役立つことを示している。 カンボジア自閉症ネットワーク
2021年3月30日
ASEAN地域のより安全で安心な海のためのVTS(船舶通航サービス)管制官訓練

ASEAN地域のより安全で安心な海のためのVTS(船舶通航サービス)管制官訓練

海上で発生する渋滞。実際に起こるが、そんな心配に応える交通監視システムがある。それがVTS(船舶通航サービス)だ。しかし、当然、VTSを操作する職員が能力を有し、適切な知識と技術を備えている必要がある。海や水路を守ることは、船舶だけでなく、より重要なことに、人命や環境を守ることにもつながる。そのため、毎日出勤するVTSオペレーターの仕事は、決して楽ではない。海運が東南アジアと世界を結ぶ中心的な役割を担ってきたASEAN地域のような海洋経済圏では、なおさらそのことが実感される。 マレーシア(ポートクラン)にある、海事局海事訓練センター(MATRAIN)のVTS管制官育成のためのASEAN地域訓練センター(ARTV)講義室内© JAIF マネージメントチーム
2018年4月1日