起業家ネットワークのためのASEANメンターシップ(AMEN)を通じたメンターの育成
30 December 2020
JAIFマネージメントチーム
ASEAN地域内の経済統合において、中小零細企業(MSME)は大きな役割を担っている。中小零細企業(MSME)の規模や能力はさまざまであるが、多くの零細・小企業(MSE)は資金や資源の不足により、その存続に苦しんでいる。このような、ASEAN地域全体における中小企業共通の苦境に対処する効果的な手段は、中小企業の事業を拡大し、収益性と持続可能性を向上させるための、制度的な能力開発プログラムである「中小企業メンタリング」の実施である。
フィリピン起業家センター(PCE-Go Negosyo)のシニアアドバイザーであるMerly M. Cruz氏は、「政府による多くの中小企業 研修プログラムは存在したが、あらゆることを包括的かつ継続的に指導するメンタープログラムは存在しなかった」と述べる。Merly氏自身は、フィリピン貿易産業省(DTI)の地域オペレーショングループ(MSME開発部門)の元次官として、政府側で勤務 した経験がある。
2016年、フィリピン起業家センター(PCE)はフィリピン貿易産業省(DTI)と協力し、フィリピンで「Kapatid Mentor Micro-Enterprise (KMME)」プログラムという、官民連携(PPP)を取り入れた、MSME能力開発を目指すメンタープログラムに着手した。PPPを取り入れることで、フィリピン起業家センター(PCE)はフィリピン貿易産業省(DTI)の全国ネットワークを活用しながら、民間セクターからメンターを採用した。また、政府のバックアップにより、メンターシップ・イニシアティブの持続可能性を確保することが可能となった。
「起業家ネットワークのためのASEANメンターシップ(AMEN)」プロジェクトは、KMMEをモデルとして、2017年にフィリピンがASEAN議長国として提案し、ASEANで最も中小零細企業数の多い3カ国、すなわちインドネシア、マレーシア、フィリピンに おいて、2018年12月から2019年11月までの1年間、試験的に実施された。
「AMENプロジェクトの強みは、各地にいるメンターの存在と、民間セクターと政府との連携にあります。また、このプロジェクトの特徴は、学術界から教授を雇うのではなく、実体験を持つ本物の起業家を招くことで、より効果的に知識を伝達できる仕組みが あることです。」とMerly氏は強調する。
この取り組み以前は、インドネシアやマレーシアにおいて、中小零細企業向けの具体的な能力開発活動に関する官民連携(PPP)の仕組みはあまり見られず、政府省庁と民間企業とのPPPの枠組み作りから始める必要があった。AMENの正式なPPPの実現に向けた最初のステップが、プロジェクト実施中にマレーシアとインドネシアで行われた点に注目だ。
AMENプロジェクトでは、48人のメンター(インドネシア10人、マレーシア19人、フィリピン19人)がプロジェクトを通じて認定され、127人のメンティー(インドネシア30人、マレーシア49人、フィリピン48人)が研修を受けた。
起業家マインドセット、サプライ&バリューチェーン、起業家向け経理&財務管理、人的資源&組織管理など、すべての中小零細 企業にとって不可欠な内容を含む10のAMENメンターシップモジュールが開発され、加えてその他実践的なモジュールも含まれている。ASEAN加盟国全10カ国で使用できるよう、参加国からの意見に基づき、税制とビジネス法のモジュールが、デジタル化、ガバナンスと倫理のモジュールに変更された。
AMENプロジェクトでメンターとして活躍するVirgilio Espeleta氏は、自身の経験を語った。
セブ州を拠点に中小零細企業向けのコンサルタントとして活躍する一方で、Virgilio氏はメンターシップに強い関心を寄せている。彼は、家族経営のビジネスを全国ブランドに育てる方法について、多くの中小零細企業に実践的なアドバイスを行っている。
KMMEプログラムに参加し、10のAMENメンターシップモジュールの開発にも携わったVirgilio氏は、JAIFの支援によりAMEN プロジェクトが実現し、KMMEモデルがASEAN地域に拡大されたことに、喜びと感謝の意を表した。
メンターを養成するAMENプロジェクトは波及効果があり、1人のメンターが生涯で20〜50人のメンターを養成すれば、メンターへの投資の費用対効果は非常に大きい。彼は、このプロジェクトを通じて接したメンティの人生に、数々の良い影響を目の当たりにしてきた。
セブ市でセミオーダーの婦人服店を経営していたメンティーの1人は、現在マニラで支店を増やして成功している。そして彼女自身がAMENプロジェクトのメンターとなり、次世代のメンティーを育てている。また、レストランを経営する男性は、新型コロナウイルス感染症の大流行で大きな打撃を受けたが、店のメニューと妻の手作りのお菓子を組み合わせた地域密着型のケータリングビジネスに転換することで、1日10ドルの売上を600ドルまで回復させることに成功した。こうしたマイクロビジネスの着実な成長が、 多くの家庭を支え、さらにその先へとつながっていくのである。
ASEAN地域全体の中小零細企業の数は、膨大である。ASEAN全域で、中小零細企業はそれぞれの国の全事業体の90%以上を占めている。これらの中小零細企業が生み出す雇用、売上、投資は計り知れない。すなわち中小零細企業は、国を不況から脱却させるための鍵なのだ。メンターシップはASEAN経済統合を実現するための重要なツールであり、それを持続させなければならない、とVirgilio氏は熱く語る。
メンターシップに共感する仲間は多いが、スキルや中身が不足しているケースもあり、そうしたメンターのレベルを一律に引き上げるのが、10モジュールである。モジュールには、本格的なMBAコースを受講しなくても、中小零細企業がすぐに実践できるような「素人向けの」内容も含まれている。
また、AMENプロジェクトでは、将来的にASEANメンターシップ機関を設立し、ASEAN地域におけるメンターの募集、研修、配置を行うことを想定している。この機関は、メンターの質を向上させ、中小零細企業の競争力を高めることで、メンターシップを持続可能なものにし、ASEAN各国の言語に翻訳された共通の教材を使用することによって、中小零細企業の成長につなげることを目的としている。
Virgilio氏は、「メンタリングとは、次の世代に利益をもたらすことだ」と語ります。そして、より多くの人がこのメンターシップの取り組みを信じ、支持してくれることを強く願い、情熱を持って締めくくった。メンターシップを通じて、より多くの中小零細企業が能力を発揮することで、さらなる波及効果が期待され、ASEAN経済の発展が促進されることだろう。
日本は、「ASEAN中小企業発展のための戦略的行動計画 2016-2025(SAP SMED 2025)」に基づき、起業家精神と人的資本の 開発の分野で、中小零細企業の開発を支援している。JAIFの中小零細企業支援に関する詳細については、セクター概要を参照。本プロジェクトは、日本政府が日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じて支援したものである。
1 Kapatidとは、タガログ語で「お兄さん」を意味し、民間大企業が零細企業や中小企業を指導・育成することを表している。