ASEAN地域のより安全で安心な海のためのVTS(船舶通航サービス)管制官訓練
2018年4月1日

ASEAN地域のより安全で安心な海のためのVTS(船舶通航サービス)管制官訓練

JAIFマネージメントチーム

海上で発生する渋滞。実際に起こるが、そんな心配に応える交通監視システムがある。それがVTS(船舶通航サービス)だ。しかし、当然、VTSを操作する職員が能力を有し、適切な知識と技術を備えている必要がある。海や水路を守ることは、船舶だけでなく、より重要なことに、人命や環境を守ることにもつながる。そのため、毎日出勤するVTSオペレーターの仕事は、決して楽ではない。海運が東南アジアと世界を結ぶ中心的な役割を担ってきたASEAN地域のような海洋経済圏では、なおさらそのことが実感される。

マレーシア(ポートクラン)にある、海事局海事訓練センター(MATRAIN)のVTS管制官育成のためのASEAN地域訓練センター(ARTV)講義室内
© JAIF マネージメントチーム

「海運は拡大を続けており、海運業を担う人々もそれに合わせて成長できるはずだ」と、海事局海事訓練センター(MATRAIN)のNordin Bin Mohamadin所長は、2017年にVTS管制官育成のためのASEAN地域訓練センター(ARTV)を設立した経緯を振り返る。同所長は、以下のように語った。「キャパシティビルディングは、不安定で場当たり的な形で行うことはできない。」時代や技術の進歩に合わせて、継続的に続けていく必要がある。

ARTVは、2017年7月24日から10月20日まで、ASEAN加盟9カ国から18名のVTS担当者を対象に、最初のトレーニングを実施した。90日間の研修は、国際航路標識協会(IALA)の VTSオペレータートレーニングコース7 IALA モデルコースV-103 / 1 修了証に従い、8つのモジュールで構成された。

インドネシアとマレーシアの3人の職員は、ARTVで受けた研修を「包括的、構造的で標準的」と表現する。彼らに話を聞いた。

Caroline Veronica氏(インドネシア航行総局 海上通信担当官)

Caroline氏はインドネシア航行総局 海上通信小局で8年間勤務しているが、彼女にとって国外での集中訓練は初めてであった。「まるで学校に戻ったような気分だった」と彼女は語る。「これまでにもVTS関連の研修には何度か参加してきたが、今回参加したARTVの研修はVTSについての一連の知識を学ぶことができ、今までで最も包括的な研修であった」と話した。

ASEAN諸国では、VTSオペレーターのための現地の研修が実施されているものの、提供される研修はIALA基準に基づく国際的に認められたものではない。Caroline氏は「国際的に認められた資格を持つことは、特に公務員としてのキャリア形成に付加価値を与えてくれる。また、国際的な委員会に参加することもできる」と熱く語った。

研修を無事終え、IALAの国際認定資格を取得したCaroline氏は、副局長をより効果的にサポートできるようになったと自信に満ち溢れている。「今はバタム島のVTSシミュレーターの開発に注力している。完成すれば、研修で得た知識をインドネシアのVTSオペレーターに伝えることができる。」と彼女は語った。

beneficiaries-voice-2-1.jpgCaroline氏は、ASEANからの代表者18人の1人であり、ARTVで行われたVTSオペレーターの研修に参加した2人の女性のうちの1人であった

©️ 日本航路標識協会(JANA)

Mohd Hafidz Bin Abdul Latif氏・Nasrol Azrin Bin Jaafar氏(マレーシア海事局 海事補佐官)

90日間の研修を振り返り、Hafidz氏は「理論・実践共に、とても勉強になった」と感想を述べた。「自分たちの仕事はもちろん、船の状態についても学ぶことができた」と彼は語る。研修後、職場に戻ると、標準的な海事用語を知っているため、他の船とのコミュニケーションにより自信が持てるようになったという。Nasrol氏にとっては、技術面もさることながら、他のASEAN諸国の研修参加者と形成したネットワークも重要であった。研修期間中は施設に滞在するため、他のVTSオペレーターと出会い、共に学ぶ、という社会的な側面のおかげで、研修の経験がより豊かなものになったと語る。

「予定をこなすこと、プログラムについていくこと、そしてすべてをクリアすることは、時にストレスであった」とNasrolは率直に語る。しかし、本当に参加して良かったと結んだ。Hafidz氏は、IALAの基準に基づいてVTSのコースが5つのレベルに分かれていることを理解した上で、オペレーターのレベル以上のことを学びたいと考えている。「マネージャーのレベルまで行きたい」と、彼は語った。

現在、Hafidz氏とNasrol氏はIALAの認定を受けたVTSオペレーターである。この研修が他の研修と違うのは、国際基準の認定を受けられる点だと、2人は強調した。

beneficiaries-voice-3-1.jpg日本の指導者Kaneko Osamu氏とのクラスの記念撮影でポーズをとる Hafidz氏(2列目、1番右)とNasrol氏(1列目、左から4番目)

© Caroline Veronica

設立以降、ARTVは、ASEAN地域において、海上の安全・安心に関する個人の能力を向上させるためのプラットフォームの役割を果たしている。研修を受けた参加者達は日々、国や地域の海運の安全・安心を確保している。


「VTS(船舶通航サービス)管制官訓練」プロジェクトは、日・ASEAN統合基金(JAIF)によって支援された。その後、2018年3月より開始したプロジェクト「VTS(船舶通航サービス)管制官訓練プログラムの高度化」に引き継がれている。


実施機関

Japan Aids to Navigation Association (JANA)

セクター

Transport

資金枠組み

JAIF 2.0

関連受益者の声

平和構築における若者の役割の強化

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2025年3月12日
マッピングプロジェクトを通じた、ASEANにおける自閉症者の権利とエンパワメントの促進

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2021年3月30日
持続可能な都市を目指すASEAN

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都市は国家の発展において、重要な役割を果たしている。経済・政治活動の拠点としてだけでなく、人々の文化的交流の中心としての役割も担っている。 急成長を遂げる都市を抱えるASEAN地域もまた、世界の他の地域と同様に、都市化による経済的利益とそれに伴う環境コストのバランスという課題に直面している。 近年、ASEANはこの課題に取り組むため、地道な努力を続けている。ASEAN環境的に持続可能な都市(ESC)の開発を促進するためには、協力的、統合的、革新的なアプローチが重要である。ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進 プログラムを通じて、ASEAN地域40都市のネットワークは、地元レベルでの都市の持続可能性の向上を目指す取り組みを開始した。以下のダナン(ベトナム)やルアンパバーン(ラオス)の事例に見られるように、「ASEANにおける環境的に持続可能な都市の促進」のパイロットプロジェクトでは、前向きな成果が得られた。 ダナンの環境に優しい住宅エリア   海岸沿いの都市ダナンは、ベトナムの有名な観光地の一つである。近年では、2018年の第6回地球環境ファシリティ総会と2017年のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が、ダナンで開催されている。このような国際的な会合の開催地として選出された経験は、ダナンが環境に配慮した持続可能な都市となるための取り組みを、さらに促進していく励みとなっている。 2011年から2015年にかけて、ダナンはASEAN ESCモデル都市プログラムに参加した。 そのパイロットプロジェクトは、環境に配慮した住宅地で行われた。ASEAN ESCモデル都市プログラムを通じて、ダナン市は以下3つの環境に優しい住宅地モデルを確立した:1)チンザン坊(タインケー区)、2)ホアアン坊(カムレ区)、3)ホアニョン社 タイ・ライ村(ホアヴァン県)。 「ベトナムの他の急発展している都市と同様に、ダナンも、特に郊外で固形廃棄物の問題に直面していました。ゴミのポイ捨て、収集率の低さ、そして分別がされないことは、コミュニティの意識の低さによるもので、一般的な慣習となっていました」とダナン天然資源環境局のNguyen Thi Thu Ha副局長は述べた。Nguyen Thi Thu Ha副局長は、パイロットプロジェクトの支援終了後しばらくして、同局がチンザン坊を訪問したとき、最も誇りに思ったと語った。住宅地域のゴミの分別と収集が、大幅に改善されていたのだと言う。「道路にほとんどゴミは落ちていませんでした」とNguyen Thi Thu Ha氏は加える。チンザン坊は、包括的で複雑なルールの代わりに、ゴミの分別に慣れていない多くの住民が混乱や抵抗をしないような、シンプルで実用的なルールを導入した。これらのルールは、コミュニティの住人たちに合意された上で実施されたため、すぐに効果を発揮した。例えば、パイロット地域では、先進国のように廃棄物を少なくとも4~5種類(またはそれ以上)に分別するのではなく、1)その後も市場価値のある「リサイクル可能な廃棄物」と、2)適切に指定された場所に置かなければならない「その他の廃棄物」にのみ分別を実施した。
2019年1月31日