ASEAN地域における熱帯性ウナギの資源管理の強化
2025年12月22日

ASEAN地域における熱帯性ウナギの資源管理の強化

JAIFマネジメントチーム

ASEAN地域において熱帯性ウナギは地域住民の生活や国際貿易を支える重要な役割を担っている。しかし、基礎となる科学データが不足しているため、将来的に資源が枯渇するリスクに直面している。特に、熱帯性ウナギの資源量、分布、資源構造が十分に解明されておらず、その結果、ASEAN加盟国(AMS)は安全な許容漁獲量を設定できずにいる。

日ASEAN統合基金(JAIF)の支援を受け、SEAFDEC(東南アジア漁業開発センター)事務局が主導する6年間のプロジェクト「東南アジア地域の熱帯性ウナギの資源評価手法の開発と資源管理施策の強化」(2020~2026年)は、これらの課題に対応するための重要な地域的取組である。本プロジェクトは、第1期(2017~2019年)の成果を基盤とし、第2期では、信頼性の高い資源評価手法の開発と各国間におけるデータ収集方法の調和に注力し、長期的な協力体制を築き、持続可能なウナギ漁業の実現を目指している。

具体的には、本プロジェクトは、ASEAN加盟国が漁獲データや生物学的情報を体系的に収集することを支援し、統計学を用いた資源量の推定手法を開発している。他の地域のウナギに対する国際的な規制が厳しくなる中、熱帯性ウナギへの漁獲圧が高まることが懸念されており、この取り組みは極めて急がれる課題である。

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チマンドリ川において、小型船からウナギ漁用の罠を点検する漁業者。
                                                                                                         @SEAFDEC事務局

ASEAN各地のフォーカルポイントから現場の声が集められ、実施機関が本プロジェクトから得られた主な成果を共有した。

Testimonial from

Dr. Evelyn C. Ame

フィリピン漁業水産資源局(Bureau of Fisheries and Aquatic Resources)キャリア・サイエンティスト兼研修監督官

本プロジェクトの成果は、ウナギ資源管理に関する政策立案の基礎となり得るものです。資源を乱用しないよう人々に伝え、適切に管理し、シラスウナギの違法取引を抑制することにつながります。

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2025年10月、タイ・バンコクで開催されたプロジェクト終了会合にて、右側に写るアメ博士とフィリピンからの同僚。

©SEAFDEC事務局

エブリン・C・アメ博士は、ウナギ資源管理における自国最大の課題は、シラスウナギ(透明な稚魚)の密輸や違法取引であり、これが資源の減少につながっていると考えられていることを強調した。また、本プロジェクトを通じて最も有益であった点として、東京海洋大学の専門家が開発した数理モデルによる資源評価ツールを挙げた。この手法により、これまで把握が困難であったシラスウナギ漁業の資源状況を評価することが可能となる。

同博士は、これらの成果をもとに、国内のウナギ資源を効果的に管理し、違法行為を抑制するために必要な新たな法律や条例の制定につなげていきたいとの期待を示した。

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Prof. Dr. Eko Sri Wiyono

インドネシア・IPB大学(ボゴール農科大学)准教授/研究者

インドネシアは国土の約66%を海域が占める島嶼国家であるため、インドネシア各地に分散している小規模漁業におけるウナギ資源の管理が大きな課題となっています。

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左からエコ博士、右にドニー氏。インドネシア代表者とともに撮影。

©SEAFDEC事務局

エコ・スリ・ウィヨノ氏は、多数の島々から成るインドネシアの広大な地理的条件と、各地に分散する小規模漁業の存在が、データ収集および資源管理を困難にしているという大きな課題を指摘した。彼にとって最も印象的だった経験は、海外の専門家と議論を重ね、ウナギの資源評価モデルを検討・決定したことであった。

本プロジェクトは、ウナギ類と類似した行動特性を持つ魚種の漁業に対する新たな資源評価モデルの開発への着想を与えたものであり、今後はこれらの成果を大学における学生への教育の場で普及させていく予定である。

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Mr. Dony Armanto

インドネシア海洋水産省

インドネシア全土において、特にウナギ漁業者や地方政府を対象とした、さらなる能力開発(キャパシティ・ビルディング)が必要です。資源管理を支援するため、参加の拡大と知識の向上につながる能力強化が求められています。

ドニー・アルマント氏は、ウナギ事業を持続可能なものとするための漁業者の能力不足が、自国における最大の課題であると指摘した。彼にとって、DNA解析や、実験室設備を必要としない迅速な蛍光識別法によるシラスウナギの識別技術が最も有益であった。

同氏は、インドネシア全土において、特にウナギ漁業者および地方政府を対象とした、さらなる能力向上(キャパシティ・ビルディング)を行い、資源管理への参加を促すことを示した。

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Dr. Phuc Dinh Phan

ベトナム水産養殖研究所 副所長

本プロジェクトで得られた知識は、ウナギの資源評価方法や漁獲漁業の把握・識別を学ぶ上で、私自身および我が国にとって非常に有益なものでした。これらの知識を活用し、我が国におけるウナギ資源の強化と保全に役立てていきたいと考えています。

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会議において、右側のフック博士が同僚とともにベトナムの状況を発表している様子。

©SEAFDEC事務局

フック・ディン・ファン氏は、ベトナムにおけるウナギ資源管理の主な課題として、自然水域におけるシラスウナギを捕まえる活動を管理しきれておらず、漁業ルールの執行も不十分なため、過剰な漁獲がの懸念されている。

同氏は、本プロジェクトを通じて得られた知識が、国家レベルの資源保全の取組において不可欠であると評価している。その専門知識には、資源評価、種の識別、ウナギ漁獲漁業の持続可能な管理手法など、本プロジェクトで得た知識は国家レベルの資源保護に不可欠なものだ。今後は、これらの知見を戦略的に活用し、ベトナム国内のウナギ資源の強化と保全を進めていく予定である。

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Ms. Ni Komang Suryati

SEAFDEC 内水面漁業資源開発・管理部(IFRDMD) JAIF-ウナギプロジェクト 活動リーダー

6年間にわたる数多くの成果の中で、私たちはウナギ資源をモニタリングするための地域共通標準手法という考え方を確立することに成功しました。この手法は、ASEAN加盟国全体で一貫して適用することが可能です。

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会議において、コマン氏がSEAFDEC/IFRDMDの調査結果を発表している様子。

© SEAFDEC事務局

実施機関を代表するニ・コマン・スリヤティ氏は、各国で異なる自然環境や漁業のやり方がある中で、ASEAN加盟国(AMS)間における調査方法を一つにまとめる(調和させる)ことが最大の課題であったと述べた。その結果、ASEAN全体で統一して使えるウナギ資源をモニタリングするための地域共通標準手法の概念を開発できたことが、最大の成果だ。

さらに同氏は、資源評価手法が、科学的に正しい手法であることはもちろん、現場の調査員や漁業者が「無理なく続けられる」方法であることが重要だと学んだ。


本プロジェクトを通じて育まれた協力体制により、ASEAN加盟国(AMS)は、ウナギ資源管理の「最初の一歩」を踏み出すためのツールと知識を備えることができた。科学的な資源評価手法の開発から、地域協力の促進、さらにはシラスウナギの識別やデータ収集に関する能力強化という強固な土台が築かれたことで、ASEAN地域における熱帯性ウナギの持続可能な利用と長期的な保全が期待される。

この取り組みは、日ASEAN統合基金(JAIF)を通じた日本政府の長期的かつ戦略的なビジョンを示すものであり、東南アジア全域において強靭で持続可能な農業・食料システムの構築を目指している。プロジェクトの成果は、ASEAN食料・農業・林業分野別計画(2026~2030年)や「日ASEANみどり協力プラン」といった将来の枠組みにも直接貢献している。


1 https://www.seafdec.org/jaif-eels/


セクター

食糧、農業、林業

資金援助の枠組み

ASEAN地域金融危機に関する緊急経済援助(EEA)

関連受益者の声

ASEAN地域における害虫・病害の分類能力構築

ASEAN地域における害虫・病害の分類能力構築

国連食糧農業機関(FAO)の報告1は、新興植物病害の半数は、国境を越えた渡航や貿易によって広がっていると指摘する。 ASEAN地域の農産物貿易量が増加する中で、一連の検疫システムは病害虫の潜在的経路に対応していく必要がある。  ASEAN加盟国は、農産物に関連する検疫リスクを特定・管理し、病害虫を正確に診断するために、分類学的知識に関する能力を開発・強化する必要性を長年認識していた。 その結果、農作物に関するASEANセクター別ワーキンググループの支持を得て、ASEAN地域診断ネットワーク(ARDN)が設立された。 これは、「東南アジア地域で検出された農業上重要な生物(特に植物の害虫、病気、有害な雑草)の識別情報を提供するシステムとして想定されている」。 様々な機関の中でもARDNは、ASEANの専門家に分類学的能力向上プログラムを実施することで、国や地域の診断能力を高めるための枠組みを提供している。  JAIFは過去数年間、「ASEAN域内での農業貿易への市場アクセスのための分類能力構築」プロジェクトを通じて、ARDNの支援に尽力してきた。このイニシアティブの下で、専門家や診断機関のデータベースが構築された。 今回、インドネシアとシンガポールからの参加者2名が、70名近くの植物衛生専門家が参加したトレーニングでの経験について振り返る。  Hendrawan Samodra氏(インドネシア農業省農業検疫庁 植物検疫バイオセーフティセンター 上級植物検疫官)  沖縄の那覇植物防疫所でのミバエ撲滅プロジェクトを視察©ASEAN植物衛生協力ネットワーク (APHCN)  
2022年8月28日
起業家ネットワークのためのASEANメンターシップ(AMEN)を通じたメンターの育成

起業家ネットワークのためのASEANメンターシップ(AMEN)を通じたメンターの育成

ASEAN地域内の経済統合において、中小零細企業(MSME)は大きな役割を担っている。中小零細企業(MSME)の規模や能力はさまざまであるが、多くの零細・小企業(MSE)は資金や資源の不足により、その存続に苦しんでいる。このような、ASEAN地域全体における中小企業共通の苦境に対処する効果的な手段は、中小企業の事業を拡大し、収益性と持続可能性を向上させるための、制度的な能力開発プログラムである「中小企業メンタリング」の実施である。 フィリピン起業家センター(PCE-Go Negosyo)のシニアアドバイザーであるMerly M. Cruz氏は、「政府による多くの中小企業 研修プログラムは存在したが、あらゆることを包括的かつ継続的に指導するメンタープログラムは存在しなかった」と述べる。Merly氏自身は、フィリピン貿易産業省(DTI)の地域オペレーショングループ(MSME開発部門)の元次官として、政府側で勤務 した経験がある。 2016年、フィリピン起業家センター(PCE)はフィリピン貿易産業省(DTI)と協力し、フィリピンで「Kapatid Mentor Micro-Enterprise (KMME)」プログラムという、官民連携(PPP)を取り入れた、MSME能力開発を目指すメンタープログラムに着手した。PPPを取り入れることで、フィリピン起業家センター(PCE)はフィリピン貿易産業省(DTI)の全国ネットワークを活用しながら、民間セクターからメンターを採用した。また、政府のバックアップにより、メンターシップ・イニシアティブの持続可能性を確保することが可能となった。
2020年12月30日
分類能力向上を通じた、ASEANの生物多様性保全の取り組み

分類能力向上を通じた、ASEANの生物多様性保全の取り組み

ASEANにおける生物多様性の保全は、分類学(種を特定し分類する科学)を含む、幅広い課題に関わっている。分類学は、種そのものと、その種が生態系で果たす役割を知り、理解するための基礎となるため、保全活動にとって不可欠である。 「ASEAN生物多様性の保全と持続可能な利用のための分類学とガバナンスの能力構築に関するプロジェクト」を通じてASEANは、域内の分類能力の強化に取り組んできた。2010年から2016年にかけて3フェーズにわたって実施されたこのプロジェクトでは、 世界分類学イニシアティブ(GTI) ASEAN作業計画2010-2015に沿って、18の研修ワークショップと4つのインターンシッププログラムが実施された。ASEAN加盟10ヶ国から、博物館、植物園、学術機関、ASEAN遺産公園/保護地域、政府保全機関に所属する449人が、これらの能力向上活動に参加した。以下は、研修を受けた受講者らの、個人的な体験談である。 「私はボゴリエンセの植物園で単子葉植物の学芸員をしているので、この研修は私の日々の業務に加えて、ラタンを中心としたヤシ科の植物分類に非常に役立っています。2014年には、同僚のJohn Dransfield博士、Edwino Fernando博士と共に、Kew Bulletin誌で新種の1つを発表しました。」 – ボゴリエンセ植物園(インドネシア) Himmah Rustiana氏
2019年11月29日